酒匂 美奈子 先生
JCHO東京山手メディカルセンター
消化器内科(炎症性腸疾患センター) 部長(取材当時)
取材日:2023年7月10日(月)
クローン病や短腸症候群(SBS)の治療は長期にわたり、日常生活での制約も多いことから、SBSの患者さんは毎日たくさんの我慢をしながら治療を頑張ってこられたと思います。私たちがSBSの診療を続けるなかで、患者さんから「下痢をしたくないから、食べないと決めている」、「毎日の点滴があるから、旅行をあきらめている」という声を聞くこともありました。命にかかわる合併症のリスクなどを考えると、何事に対しても消極的になってしまうのはやむを得ないことだったかもしれません。かつてはSBSの治療法も限られていたため、医師としても歯がゆい思いをしてきました。
しかしながら、近年は栄養療法や薬物治療の進歩により、SBSを取り巻く環境は大きく変化しています。私たちJCHO東京山手メディカルセンターにおいても、SBS診療に携わる医療スタッフとともに治療に積極的に取り組んできました。新しいSBS治療にチャレンジした患者さんのなかには、「夜間のトイレの回数が減って、よく眠れるようになった」、「仕事中の点滴がなくなったら、同僚から心配されなくなって気持ちが楽になった」など、今までは我慢するのがあたり前だったことが軽減されたり、解消されたりして、前向きな気持ちの変化を感じている方もいらっしゃいます。もし、ご自身の体調や治療に関して気になることがあれば、たとえ小さな問題であったとしても、臆せずに医療スタッフに相談してみてください。私たちは、患者さんが抱える問題を知り、一緒に解決していくことが、SBS治療の進歩にもつながると考えています。